同窓生紹介 ドン・ボスコの教え子たち

無骨な風貌と朴訥な姿の中に穏やかさと優しさを感じさせる。紙にイメージをスケッチしながら話すのが印象的だった

プロダクト・デザイナー

山田 耕民さん

やまだこうみん 1947年東京都生まれ。育英工業高等専門学校(現サレジオ高専)工業意匠学科卒業。故ヘンドリックス神父の紹介により、 千葉大学工業意匠学科意匠科に助手として入職し、デザインコンセプト・モデリング等を学ぶ。1983年発表の「グローバル」は世界的に評価され、今も世界で愛され続けている。
【デザインした主な製品】[野田琺瑯] カマド、ノマク、[吉田金属工業]グローバル、[ローゼンダール]ツール、[KOMIN]ケトル、ナベ、フライパン、イモノ、[モリイ]炭器 スミキ、[シャラクモノ]カトラリー、ミキシングボール、[ST化学] 芳香剤 他
【受賞歴】日本グッドデザイン賞、ロングライフデザイン賞 他

サレジオ歴

サレジオ工業高等専門学校
(旧育英工業高等専門学校)

自分を信じること。
それから、心に響くことを大切にする。

「六感に響くいいアイデアが出てこなければ絶対に始めない」。
世界で愛されている包丁、「グローバル」(吉田金属工業株式会社)などをデザインした日本を代表するプロダクトデザイナー・山田耕民さんに話を伺った。

「ドン・ボスコの風」No.12 2014年1月より転載。 記事内容は取材当時のものです。

いつから、デザインに興味があったのですか?

昔は遊び道具が少なかったので、小さい頃から兄の真似をしてナイフ一本で工作していました。それに父がプリンス自動車(1966年に日産自動車と合併)に勤めていたので、物を作るということに関心はありましたね。それでいつかは車のデザイナーになりたいなと思っていました。

どんな学生でしたか?

どちらかって言ったら悪いほう。うちはそんなに裕福でなかったから、しょっちゅう隠れてバイトしてましたね。学校を休んで家で看板を作っていたことがあるんです。そしたらヘンドリックス神父が、英語の坂口先生と一緒に訪ねてきてね。ばれたかもしれないなあって。もう時効だからいいか(笑)。

ヘンドリックス神父の思い出としては、彼は芸術、技術、文化、宗教に対してとても偏見の少ない人で、僕みたいな無宗教な学生も温かく見守ってくれました。僕はいわゆる優秀な学生ではなかったのですが、彼は僕の感性を非常に大切にしてくれたし、客観的に見てくれました。そういうことで僕は千葉大学に推薦され、そこの工房助手をしました。その縁で大日本印刷でパッケージをかなり勉強し、大日本印刷の関係で新潟での雑貨のデザインの仕事を始めました。

どんなことを考えながらデザインされていますか?

左奥が「GLOBAL」最新モデル。隣の白いのはその試作木製モデル。右の2つの白いケトルは野田琺瑯製。一番手前の2つの鍋は新潟県燕市のメーカーとの共同ブランド「シャラクモノ」。使い勝手がそのまま形になったかのよう

雑貨のデザインの世界というのは、完全にオリジナリティのあるものはなかなか作れません。自分が感激するようなデザインを見て、何がいいんだろうとつき詰めていくと、使いやすさだったりシンプルさだったりするんです。スプーンでいえば、持ちやすさ、口にいれるときの角度。それから置いたときに形がきれいかどうか。

そして最初にあるのは、どんなものが欲しいかということ。まず自分が欲しいかどうか。でも逆に個人的に自分が好きというだけでなく、こういうのがあってもいいはずだという考えを大切にしています。

それから、自分が物を作るときのモチーフは必ずどこか自然の中にあります。包丁の「グローバル」(1983年に吉田金属工業株式会社が製造・発売した世界初のステンレス製一体構造包丁)だって、私自身も後で気付いたんですが、これって魚の形じゃないかって。自然にある物はどんなに異形であっても生きていくのに都合のいい形になっています。そういう意味では、大自然が一つのパターン作りをしているわけです。それが自然の偉大さであると。そう考えると、自分なりのオリジナルの形を作ろうというのは傲慢な考え方で、人間の作るものなんて非常に小さなものだなと思います。

仕事をする上で大切にしていることは?

ステンレス製 一体構造包丁 「GLOBAL」

一つだけ鉄則があるんですよ。自分に響かなければその仕事はやらない。自分の天職は作ることだと思いますが、僕はなかなか仕事を始めません。なぜなら作るという行為はとても根源的でつらいことですから、いいアイデアが出るまで絶対作らない。わかるんですよ、感性で。焦点が絞られて、無駄なものが省かれていくんです。描いているうちに「あ、これだな」って。それから始めます。技術というのは努力次第で人格的に良かろうが悪かろうが、ある程度到達できるものだと思います。けれども感性はもともと悪ければ磨いても伸びません。デザインの世界は99%は努力だけど、最後の1%は六感(計り知れないものを感じる力)だと思います。その六感みたいなものが働かないといいものが出てきません。六感を満足させるようなものは、いいデザインになっています。

ただ物が売れたりヒットしたりするのは、多分にその人の才能もあるけど、それまで培った人間関係から回ってくるチャンスに巡り合うということかもしれません。僕はデザインでも人間関係でも、耕作した部分しか実らないと思っています。人間関係だったら人を耕すということですが、耕した分だけその本人から帰ってくるってわけではないけれども、誰かからその実りが返ってきます。でも大事なのは実ることを期待しないで耕すことだと思います。ヘンドリックス神父がそうだったと思いますが、人間が出来ている人は、実りを期待していないんですね。

若い世代へのメッセージを

自分を信じること、それから心に響くことを大切にすること。何かかっこいいと思ったら、それはなぜか、なぜ心に響くのかを突き詰める。実は単純なものほど、それは仕上げだったり考え方だったりします。

デザインをする人に言いたいのは、“作る”ということが前提にならなければ、デザインは出発しないということ。表面的なことをデザインするのではなく、“作る”ことを真剣に考え、“作る”ことに責任を負っていってほしいなと思います。