甲子園というイメージはまったくありませんでした。自分たちの力量や環境を考えたら無理だろうと。ただ任された以上は恥ずかしくない試合をしたい。生徒は敏感ですから監督がどの程度本気なのかは見ています。それは生徒にも伝わっていったと思います。そうやって3、4年経つうちに結果が出るようになってきました。県大会の1回戦でコールドで負けなくなり、ときどきベスト8まで行けるようになっていくと、宮崎のマスコミにも取り上げられるようになりました。そして試行錯誤しながらやって10年目に甲子園に行きました。運もよかったのでしょうけれど、たまたま結果が出ました。
実は10年目に甲子園に行ったのですが、今思うと9年目のチームが最強のチームでした。ところが彼らは宮崎県大会の決勝で負けました。そして次の年の選手は育っていませんでした。実際に弱く、何の前評判もありませんでした。夏の県大会前まで6勝23敗ぐらいだったと思います。しかし、一つ勝ち、二つ勝つうちに、なにか不思議な雰囲気が出て奇跡的に勝っていったのです。
高校生というあの年頃の子は、技術の戦いの前に精神の面で負けたり勝ったりするのですね。よく世間でいう「あきらめちゃいかん」というのは本当です。そしてゲームに魔物がすんでいるというのは、強いチームでも精神面で崩れていくということなんですね。生徒たちにはこのことをよく話ました。心が相手よりも負けていたら試合に負けるよと。相手が技術で10持っていても心が弱くて7しか出せないかもしれない。うちは技術を7しか持っていなくても心が強くて7出せば五分だぞと。
そして結果を出すことが一番の薬ですね。やはり勝つことです。監督は試合で勝たせるのが役目です。練習試合でも勝ったときの表情は生徒も親もすごくいいんですよね。公式戦で勝つと練習試合の10倍ぐらいみんな手を取り合って喜びます。勝って得るものというものはあります。だから必死になります。だけど負けたときの悔しさを何度味わったことでしょうね。監督をしていて苦労が9割で、喜びは一瞬です。その一瞬の喜びが何にも変えられないですよね。