大阪星光学院に入学したきっかけは?
小学校5年生の時、父親が私立中学の受験を勧めてきたんです。実家の周辺はあまり治安がよくなかったので「息子は私立に入れてみるか」と思ったらしく、私立なら大阪星光学院(以下、星光)がいいと聞いたようです。僕自身はというと、当時は自分のことを天才だと思っていました。周りに勉強をする人がいなくて、普通にしていただけなのですが(笑)。天才だから受かる!という思い込みと勢いで、星光に合格しました。
tanQ株式会社 創業者
もりもとゆうき 1986年大阪府松原市生まれ。大阪星光学院中学校・高等学校卒業。神戸大学経営学部を卒業後、広告代理店のベンチャー企業へ就職。その後、出会った仲間たちと教育系ベンチャーのtanQ株式会社を設立。子どもの「知りたい!やってみたい!」を育む探究型・知育型通信教育と探究型学習塾の運営、教材制作を行う。
大阪星光学院中学校・高等学校同窓生
勉強する意味も、生きる意味もわからなかった青年が、ある授業をきっかけに、学び探求する喜びに目覚め、起業をめざすことに。教育系ベンチャーを起業し、子どもが楽しみながら「探求する力」を育む仕掛けづくりに取り組む森本佑紀さんにお話を伺った。
「ドン・ボスコの風」No.23 2019年10月より転載。 記事内容は取材当時のものです。
小学校5年生の時、父親が私立中学の受験を勧めてきたんです。実家の周辺はあまり治安がよくなかったので「息子は私立に入れてみるか」と思ったらしく、私立なら大阪星光学院(以下、星光)がいいと聞いたようです。僕自身はというと、当時は自分のことを天才だと思っていました。周りに勉強をする人がいなくて、普通にしていただけなのですが(笑)。天才だから受かる!という思い込みと勢いで、星光に合格しました。
入学したのに、最初は学校に行きたくなくて。地元の仲間は楽しく青春しているのに、星光では同じ進学塾出身者どうしがすでに知り合いで、僕だけ一人ぼっち。同級生の話を聞くと、親が社長とか医者とかで、僕がいる場所じゃないんだと感じました。ところが柔道部に入部したら、友達ができて楽しくなって。毎年の合宿も楽しかったです。勉強以外のことが学校へ行く理由でした。成績は常に下から2番をキープ。両親から「勉強しなさい」と言われなかったのは救いでした。
学校に自分の居場所を作らなくてはと思って、お笑いに精を出しました。漫才を研究して、台本を書いて、お笑いライブを開催したりして、学校では人気者でした。勉強が嫌いで、大学に行く意味がないと思っていたので、高校3年でみんなが受験勉強している時に、僕は漫才のコンクール「M-1グランプリ」に出場。自信満々でしたね。ところが自分のお笑いは学校の外では全然受けない。1回戦で惨敗でした。プロは舞台に登場した瞬間に笑いをとって、声の出し方も間のとり方も、才能が全然違う。スパッとあきらめがついて、受験勉強に切り替えました。
すごく印象に残っているのは、中高6年間お世話になった岩城志門先生です。毎朝、僕の頭をヘッドロックしてきて、「今日は何か悪いことしてへんか?」と聞いてくるんです。今学校に着いたばかりなんですけど(笑)。勉強が苦手でも、そんなふうに体当たりで関わってくれる先生がいて、僕は嬉しかったです。
勉強する意味がわからないまま大学に進学して、初めの2年間はほとんど学校に行きませんでした。ところが、大学3年の時に出席した三品和広教授の経営戦略の授業で目を開かされました。たとえば、「なぜ戦争が起こったのか」という問いから始まって、哲学や宗教も含めあらゆる教科を横断して授業を展開したり、『八甲田山』という映画を見て「この戦略をどう思うか」と議論させ、企業で不祥事が起きた場合にどう対応したらよいかを考えたりするんです。
三品教授の「君たちは正解を学んできたかもしれない。でも、世の中のことに正解はない。だから学ぶんだ」という言葉が胸に刺さりました。それまで僕は試験のための勉強で学ぶ意欲を失っていましたが、「勉強って、めっちゃおもろいやん!」と。同時に、「もっと幼い時に言ってよ!」と憤りを感じました。それからは二十歳までマンガしか読んでいなかった僕が、むさぼるように本を読むようになりました。すると、社会に出る意味も、生きる意味もわからなかった僕に、やりたいことがたくさん出てきて、起業してダイナミックな経営をしてみたいと思うようになったんです。
大学卒業後は広告代理店のベンチャー企業に就職しました。起業セミナーに通い、課外活動をするうちに、今の会社の仲間と出会い、意気投合して、教育で起業することにしました。「教育」という、夢中になれるものに出会えたんです。
tanQ株式会社では、子どもの「知りたい!やってみたい!」を育む教育サービスを提供し、その教材を制作しています。インターネットの動画を利用して、広くあまねく誰でも、手頃な価格で学べるのが特徴です。今は主に小学生を対象に、探究型・知育型通信教育の「tanQ2uest(タンキュークエスト)」と、探究型学習塾の「tanQLABO(タンキューラボ)」を運営しています。学校や学童保育などにもサービスを提供していて、僕はいろんな場所に出張して子どもたちと一緒にワークをすることに力を入れています。
勉強には興味がない、必要ないと思っている人にこそ、遊ぶような感覚で仲間と共に考える体験を通して、好きなことに出会い、学ぶ楽しさに出会ってほしいと願っています。tanQ2uestの教材は、動画を楽しんで疑問をもち、実験やゲームなどの体験学習を通して、家族や友達と共に学ぶ仕掛けになっています。大人は教壇に立つ必要はなくて、子どもと同じ目線で学んだり、子どもの成長を一緒に喜んで伝えたりする立場になります。
知識の習得も大事ですが、複数の人間が価値観をぶつけ合って学び合う「深く対話的な学び」を大切にしています。社会で共に生きていくためには、「なぜ?」「どうすれば?」という問いについて、いろいろな人の意見を聞き、自分なりの意見を伝え、一緒に力を合わせて探求することが必要だからです。
不登校の子どもが年々増加しています。世界とのつながりの意味を見失って、自分が透明になって消えてしまいそうだという子どももいます。興味をもつことは、世界とつながる鎖だと思います。教える側が進化しなければなりません。楽しみながら「探求する力」を育む仕掛けをつくっていきたいです。
自分の過去を振り返ってみて、苦しいことや、ひどいこともたくさんあったけれども、歩んできた道は全部正しかったと、今は思えます。今、苦しいとか、生きるのが嫌だと思っている人には、その苦しみは、未来の自分のために与えられているんだよ、と伝えたいです。きっとその苦しみは、活かすために与えられている。僕はそう受け止めて乗り越えてきた気がします。
通信教育tanQ2uestの教材の一つ、元素バトルゲーム「アトモン」に小学生も夢中! オンライン授業では講師や受講生と対話し、個別にフィードバックも行う。
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