同窓生紹介 ドン・ボスコの教え子たち

株式会社 本田技術研究所

羽深 藍さん

はぶかあい 1980年生まれ。株式会社 本田技術研究所 汎用R&Dセンター第1開発室 所属。
育英高専 電気工学科で学び、在学中に高専柔道全国大会にて3位入賞。ソーラーカーの研究と製作活動にも参加し、1999年にオーストラリア縦断レースなどに参加。柔道の得意技は一本背負い。

サレジオ歴

サレジオ工業高等専門学校(旧育英工業高等専門学校)同窓生

技術は人を幸福にしなければならないものです

「ドン・ボスコの風」No.7 2011年7月より転載。 記事内容は取材当時のものです。

ホンダでどんな仕事をされているのですか?

職場にて

研究開発を主に担当しています。ホンダといっても、車やバイクではなく、汎用製品と呼ばれるものを扱っています。例えばいま被災地で使われているような小型の発電機や、家庭用の耕うん機、芝刈り機、除雪機など。これは後ろから押して歩く小さなタイプのものです。お年寄りが乗る電動の車いすや小さな船のエンジンなども開発を行っています。私は電気工学科卒業ですから、どんなスイッチをつけよう、どうやって機械を制御しようというようなシステム全体を考え、テストをするといった電気関係の開発を担当しています。

研究者の女性率は?

非常に少ないですね。研究開発に従事している女子はわずかです。回りには機械好きの子どもみたいなおじさんばっかりです(笑)。でも育英高専(現サレジオ高専)の5年間も似たようなものでしたので、職場でも違和感なくやっていけました。育英高専が共学となったのは1988年からですが、それでも電気工学科に入学する女子は少なく、私で6人目だったと聞いています。女子の後輩が増えていると嬉しいのですが。

確かに男の人と一緒に働く体力とタフネスを要求されつつ、女性ならではの考えも出していくというのは大変です。でも開発の中で女性の感性が生きることが必ずあります。たとえばメインユーザーが女性の場合、手で握るレバーは男性向けよりも近くしないと女性にはきついですよね。そういう観点は女性の方が出やすいですから。

サレジオ高専に入った動機は?

1999年オーストラリアのソーラーカー縦断レースにて

もともと何か技術職に就きたいと思っていましたが、たまたま母がNHKの「ロボットコンテスト」が好きで私も毎年見ていました。そしたら女の子だけで参加していた学校があったんですよ。びっくりしましたね。実はそれが育英高専でした。調べたら家からとても近くでしたので、この学校に行こうと決めました。けれども数学がとても苦手だったので親に頼んで半年間だけ家庭教師をつけてもらい、中学1年生から数学をやり直して受験しました。

入って1年目はロボコンをやっていましたが、次の年からはソーラーカーなどの省エネカー製作に移行してそれからはずっと省エネカーをやっていました。4年生のときにはアメリカとオーストラリアにレースで行くことができました。オーストラリアでは1週間風呂なしでテント生活ですからとても大変でしたが、仲間と一緒にレースができることが楽しかったので苦にはならなかったです。

サレジオ高専で培ったものは?

高専の校是である「神は愛なり 技術は人なり 真理は道なり」に表されていると思うのですが、技術は人のために使って初めて技術であり、人を幸福にしなければならないものです。そしてエンジニアはそれを必ず心に留めていないといけないと思います。そういった考え方や、「神は愛なり」とあるように互いを愛し、人を大切にすることを校是として掲げている工業学校はとても珍しいと思います。神という絶対的な存在があって、そこに技術があるという考えは、ものの見方としてとても貴重です。卒業して社会に出て初めて気づくことができました。

また入社してから一人では何もできないことがよくわかりました。まさに「技術は人なり」です。どんなにすごい技術であっても人と折衝できなければ、それはやはり「技術」ではないと思います。たった一人の人も納得させられない技術は、他の人も説得できるわけはなく、それを世の中に出しても決してよい商品にならない。つまりエンジニアといえども人と対話することをおろそかにしてはならないということです。

また商品を開発するわけですから「人」=お客様について知らなければ何もできません。私は耕うん機を長く担当していますが、入社した時は耕うん機を使ったことがなかったので、ひたすらずっと使って、どう使われるかを勉強しました。農家に嫁にいけるんじゃないかと思うくらい使いましたね(笑)。除雪機でも同じように北海道と新潟に詰めて一日中ずっと除雪をしました。とても大変でしたが、お客様=相手の境遇をきちんと理解して商品に反映したいという思いで乗り切りました。そういう考えが自然に出てくるようになったのはサレジオ高専のおかげだと思います。

おそらく私以上に高専生活を楽しんだ学生はそうそういないと思います。柔道やソーラーカーレースで国内外に遠征もだいぶさせてもらいました。その経験の一粒ひとつぶが今の私のもとになっています。